ハーブティーと口の渇きの関係をやさしく検討|唾液・自律神経・生活習慣
- Y 淑子
- 9月4日
- 読了時間: 6分
本稿は生活者が行う体験の整理ノートです。医療・歯科の診断や治療を指示する意図はありません。
症状や服薬に関する判断は、医師・歯科医師など専門職へご相談ください。
はじめに|二つの体験から出発する小さな問い
・北海道在住・40代女性のご家族:ハーブティーを続けるうち、ゴルフ中の強い口渇が軽くなり、水をがぶ飲みする場面が減少したとの気づき。
・神奈川県の女性:歯科で「年齢のわりに唾液量が多い」と指摘されたという報告。
体験は個人差が大きい。
因果を早合点せず、唾液生理・自律神経・生活習慣の知見と照合しながら、妥当な説明可能性を検討する。
唾液生理の要点|副交感神経とムスカリン受容体
唾液分泌は自律神経に制御され、副交感神経(コリン作動性)優位で水様性の分泌が増える。
主要な機序はムスカリン受容体(主に M3)を介した腺細胞の液分泌で、交感神経は蛋白成分中心の調整に関与する。
生理学・遺伝学レベルの研究でも、この自律神経制御が唾液流量の第一因子であることが繰り返し示されている。
口腔乾燥と臨床指標|UWS 0.1 mL/分という基準線
臨床では「乾燥感(自覚)」と「分泌低下(客観)」を分けて考える。
安静時(UWS: unstimulated whole saliva)0.1 mL/分以下は唾液腺機能低下の指標として広く用いられ、JADA 総説やシェーグレン症候群の国際分類でも採用されてきた。
平均的な安静時は0.3〜0.4 mL/分とされる報告が多い一方、閾値の感度・特異度には年齢・性差の影響があり、0.2 mL/分を支持する検討も存在する。
測定法の差異や母集団の違いに留意しつつ、UWS ≤0.1 mL/分は「明らかな低下」の目安と理解しておくのが実務的である。
乾燥を悪化させる背景要因|薬剤・加齢・ストレス
口腔乾燥は
薬剤性(抗コリン作用薬、降圧薬、向精神薬など)、
加齢変化、
喫煙、
放射線治療後、
自己免疫疾患など
多因子で進行する。
日本歯科医師会の解説は、薬剤や加齢の影響をわかりやすく示しており、生活の質や口腔感染リスクへの波及も指摘している。
一方、ストレスは自律神経のバランスを崩しやすく、
活動モード(交感神経)への偏りが持続すると乾燥感につながりやすい。
厚労省監修の専門家コラムは、
ストレスが
・自律神経
・内分泌
・免疫へ波及する
一般機序を丁寧に説明している。
ハーブティーという選択|ノンカフェイン中心の水分リズム
多くのハーブティー(ティザンヌ)は
本質的にカフェインを含まない。
たとえばルイボスは伝統的に天然カフェインフリーであり、特有ポリフェノール(アスパラチンなど)を含むことが知られている。
研究レビューやシステマティックレビューでも、その性質が繰り返し整理されている。
一方、市販ブレンドには例外が紛れ込む場合がある。
原材料表示でマテなどの含有の有無を確認し、自身の体調や服薬状況に合わせて選択したい。
睡眠への影響を避ける観点では、午後〜夜間のカフェイン摂取を控える配慮が合理的である。
専門病院の解説も、摂取量と時刻の管理を推奨している。
体験の説明可能性|「温熱・香り・摂取様式」の三要素
冒頭の体験を唾液生理と生活習慣の枠組みで説明するなら、次の三要素が候補に挙がる。
温熱刺激と呼吸の同期
温かい飲みものは迷走神経系を介した副交感神経優位を後押ししやすい。
腹式呼吸や筋緊張の緩和と組み合わせると、落ち着きが生まれ、安静時の唾液分泌に有利な条件が整いやすい。
厚労省のストレスケア資料も、呼吸を用いた自律神経調整に触れている。
香りと注意のフォーカス
カップに顔を近づけ香気に注意を向ける行為は、認知的な緊張を和らげる行動リチュアルになりやすい。
交感神経過緊張が緩むと、唾液腺の液分泌が生理学的に起こりやすい。
摂取様式(少量ずつのすすり飲み)
味覚・機械受容の刺激は唾液反射を引き起こす。
少量を反復する様式は刺激回数を増やし、口腔内の潤い感に寄与する可能性がある。
因果を断定するより、複数の小さな機序が積み重なるという描像が臨床生理に沿う。
実践ガイド(一般情報)|安全に試し、客観も意識する
1|タイミング設計
日中は作業の区切りに一杯、夕方以降は刺激の穏やかなブレンドを少量。
睡眠の質を守る目的で、午後遅い時間のカフェイン摂取は控える。
2|呼吸・姿勢のプロトコル
香りを吸い、ゆっくり長く吐く。
肩と顎を落とし、腹部の動きを感じながら飲む。
い副交感神経の働きやすい環境を意図的につくる。
3|3行メモで個体差を見抜く
・飲んだ時刻
・シーン(運動前後、就寝前など)
・感じたこと
を2〜3週間記録し、相性の良い時間帯と量を特定する。
4|専門職への橋渡し
乾燥感が続く、う蝕・歯周のトラブルが増える、薬剤変更があった、といった場合は歯科で相談し、必要に応じて唾液流量(UWS/SWS)の評価を受ける。
UWS ≤0.1 mL/分は明確な低下の目安であり、測定法・年齢・性差の影響を加味した上で総合判断してもらう。
まとめ|習慣の設計が「潤いの実感」を支える
唾液分泌は副交感神経優位で促進され、乾燥には薬剤・加齢・ストレスなど多因子が絡む。
・ノンカフェイン中心の
・水分リズム
・温熱
・香り
・呼吸によるリラクゼーション、
少量反復という摂取様式の組み合わせは、生理学の枠組みと整合的だ。
体験の意味づけは記録と微調整で洗練される。
今日の一杯が、口腔と生活の快適さに穏やかな支えをもたらしますように。
参考情報・出典
日本歯科医師会「お口のなんでも相談:口腔乾燥」— 口腔乾燥のリスクや背景要因の整理。
日本歯科医師会『教えて先生:ドライマウス』— 薬剤・加齢・自己免疫などの要因整理。
Proctor GB. Regulation of salivary gland function by autonomic nerves. Auton Neurosci. 2007 — 自律神経による唾液制御の総説。
Nakamura T, et al. M3 muscarinic receptor plays a critical role in salivary secretion. J Physiol. 2004 — M3受容体の中心的役割。
Navazesh M, Kumar SK. Measuring salivary flow. JADA 2008 — UWS ≤0.1 mL/分の基準、採取法の標準。
Dawes C. Salivary flow patterns and oral health. JADA 2008 — 安静時流量の基準と低下因子。
Lacombe V, et al. Unstimulated whole saliva flow for diagnosis of pSS. Arthritis Res Ther 2020 — ACR/EULAR 基準における UWS 0.1 mL/分。
厚生労働省 監修コラム「ストレスとは」ほか— 自律神経とストレスの基礎。
NCNP 病院「カフェインと睡眠」— 摂取量・時刻の考え方。
Afrifa DA, et al. Health benefits of rooibos tea in humans. 2023 — ルイボスのカフェインフリー性と特有ポリフェノール。
Speer KE, et al. Rooibos Tea and Health: A Systematic Review. Beverages 2024 — ルイボスの系統的レビュー。
厚労省「早く気づけるストレスケア(資料)」— 呼吸による自律神経の調整。






コメント